アップルと任天堂。

 いまやiPhoneiPadは飛ぶ鳥を落とす勢いです。しかしいっぽうで「エコシステム」とよばれる囲い込みによって、ソフトウェア(コンテンツ)供給側はアップルのいいようにコントロールされています。

 この状況はファミコン時代の任天堂に良く似ています。当時の任天堂はライセンス料、ゲームカセットの製造費、ゲーム内容の検閲などにおいて、サードパーティを厳しくコントロールしていました。その後、業界内では任天堂 vs ソニーを軸として各社が競っていますが、エコシステムの仕組みは現在に至るまで根本的に変わっていません。

 話は変わりますが、かつてソニーが当時の音声ファイルとしてデファクトスタンダードであったmp3に対応せず、あれよあれよという間にiPodに携帯音楽プレーヤーのシェアを圧巻されてしまいました。今ではiTunesがPCにおける音楽管理ソフトのスタンダードとなり、ウォークマンはいつになったらiTunesに対応するのか?という本末転倒的な要望が多くなるようになりました。もしウォークマンがいち早くmp3に対応していたら、少なくても日本国内においては今よりもシェアを確保していたと思います。

 iPhoneの対抗馬としてWindows MobileWindows Phone)があります。携帯情報機器としてはWindows Mobileに一日の長があっても良さそうですが現実としてシェアでは圧倒的に負けています。Windows Mobileはいわゆるオンラインソフトに対する規制が無いので、各種のソフトウェアが数多くリリースされ、ユーザーは自分の好みに合わせて「カスタマイズ」する自由度が大変に広いのが特徴です。しかしいっぽうでは、買ったままでは使い物にならないほど、標準のアプリケーションの完成度が低く、信頼性も安定性もありませんでした。そんな状態が長く続いているうちにiPod TouchiPhoneへと進化し、Windows Mobileはあっという間に抜き去られてしまったように思います。

 iPhoneは確かに使いやすく便利です。でも不満はそこかしこにたくさんあるデバイスです。メールなんて非常に使いにくい。でも代わりがないから仕方なく使い続けてしまう。そうしているうちに何となく慣れてしまう…という感じです。これで安定せず信頼性もなければ使うこともないのでしょうが、データの消失方面の事故は全くないので安心感はあるんです。ここがiPhoneの強さだと思います。使い勝手だけならそのうち良くなるだろうと期待さえしてしまいます。現に当初は使えなかった「カット&ペースト」が今では使えるようになっています。ペースは遅いですが憎らしいほど上手なペースで進化しています。そういう戦略的なうまさもアップルにはありますし、任天堂にも共通しています。

 任天堂はハードもそうですが、マリオとゼルダという両巨頭ソフトをハードウェアの発売やてこ入れ時期に合わせて投入する戦略があると思います。そしてそれらの作品は最低レベルにおいてユーザーの期待を決して裏切りませんから、もっとはやく出して欲しい、とか、細かい不満よりも、新作への期待のほうが増幅してしまうのです。

 このようにアップルと任天堂はハードウェアとソフトウェアの両方を上手にコントロールしながら、引いてはサードパーティとユーザーをもコントロールしてしまうのです。両社や両社の提供する製品に対してはサードパーティもユーザーもそれなりの要望や不満を抱えているにも関わらず、結果的にはまるで魔法に掛かったように両者の思う方向に導かれています。

 結局、両社に共通することは、本当の意味で「ユーザーの期待に応える」、また良い意味で「ユーザーを裏切る」ことにあります。これらを達成されてしまうとユーザーとしては「いつ買うか?」「どう買うか?」と買うこと前提の思考回路しか働かなくなってしまうのです。

 対してWindows MobileウォークマンPS3など最近のソニー製品は、ことごとくユーザーの期待を裏切っています。アップルや任天堂の製品の弱点が見えているにも関わらず、そこを突けていないし、現在アップルや任天堂のユーザーの要望も把握できていないんです。

 アップルはiPadに続いて間もなくiPhoneの次期モデルを出すそうです。任天堂は3D対応のDSを出すそうです。例えばソニーが、デジタルチューナーと書き込み対応ブルーレイドライブを搭載したPS3や、そのPS3にダイレクト接続できるプレーヤー(PSP+ウォークマン的なデバイス)を出したら話題を呼ぶと思います。世間的評価は別にしても個人的には飛び付くと思います。そういう魅力的なものを出して頂きたい。ソニークロスメディアバーユーザーインターフェースは好きですし、ソニーブランド自体も好きですので。

 最後はソニー頑張れ的な内容になってしまいましたが、とにかく、一社独占市場はユーザーにとって好ましい状況ではありませんので、常に2〜3社が競り合う状況になって欲しいし、小型端末やゲームにおいてはアップル、任天堂ソニーあたりに頑張って欲しいので、今回はこんなことを書き殴ってみました。