PDAに求めるPCの機能、他。

 最初に。この文章はだいぶ前に思いつきで書いたものを元に、加筆修正したものです。

 PDAを買おうと思う理由あるいは目的のひとつに、PCのアプリケーションで作成したドキュメントの活用が挙げられます。実際、この機能を売りにしているPDAは数多くあります…というか、ほとんど全てのPDAが柱にしている機能と言えるかも知れません。また、ドキュメントの変換や同期の方法、使い方は様々で、PDA側専用のファイル形式にコンバートして閲覧(だけを)可能にするものから、ファイルを変換せずにそのまま編集することもできるものまであります。これらの機能をPDAのカタログ等で見ると、いかに簡単に、そして正確に同期や変換ができるのかが解説されていて、大変理想的であり、購買意欲が高まります。

 しかし…。
 これまでの経験からは、期待通りだったモノは皆無でした。PDA向けのPCドキュメント編集ソフトは何かと制約(扱えるファイルのサイズ、編集や修飾の機能など)が多く、実際に業務などに活かせたことはありません。せいぜい、いくつかのファイルを転送してみて、それなりに表示されたのを見て「なるほどネ」と軽く感心する程度で、いざ編集を試すと、PDA自体の性能も相まって、モッサリ感や画面の狭さから使っていく気が失せてしまうのです。また本格的な編集にはキーボードが欠かせませんが、そういう用途に耐えうるキーボードを持ったPDAがほとんど無いからも、PCのドキュメントの編集はPCで行うことが最善である、という結論に達します。

 ところで、ケータイでもWebやメールが使えることが当たり前になりました。もはや通話よりも、ネットワークコミュニケーションのほうが主役になりつつあります。ところで、PCやPDAにくらべて、ハードウェア的な性能が低いはずのケータイでWebやメールを使っていても、さほどストレスを感じません。理由は、ケータイ向けのWebやメールが、ケータイ用に画面やコンテンツのサイズなどが最適化されて提供されているからです。ドコモはiMODE、auEZWebと、キャリアごとに独自のサービスになっていますが、得られる情報やサービスは、大きく異なるものではなく、片方で人気のあるコンテンツは、すぐに他のキャリアでも採用されるので、実質的には変わらないサービスを受けることができています。これは携帯電話の各キャリアが、コンテンツ・ソフトウェアの重要性を良く知っているからだと思います。

 ところがPDAはどうでしょうか?
 結果から言うと、SONYSharpが何とか…という感じです。SONYは内蔵のアプリや、VAIO(PC)との連携、SonyStyleでのソフト・コンテンツ提供に力を入れ、Sharpはシャープスペースタウンやザウルス宝箱でのソフト・コンテンツ提供に力を入れています。こういうサービスがあると、ユーザは安心してPDAを買うことができると思います。いくら本が読める、動画が見られると言っても、コンテンツが提供されないのでは全く意味がありませんからね。

 いっぽう、PDAでは、PC向けのWebページも見ることができますが、ふだん、PCのIE6で見ているニュースサイトをPDAで見ると非常に読みにくいですし、ショッピングや銀行サイトでは、取引自体ができないこともあります。こんな状況では、PDAにWebやメール機能を搭載したところで、実用的な道具とは呼べません。まぁ、だからこそ、工夫して楽しめる余地があるとも言えますが、それは基本的なことができた上での趣味の世界だと思うのです。

 PCドキュメントの活用、Webやメールの利用から考えると、いまのPDAがいかに中途半端なのかが浮き彫りになってきますが、こんな状況の中で登場したsigmarion IIIでは、画面の狭さやキーボード、処理性能等による制約がだいぶ緩和されました。感覚的には、jornada 720での作業が「できないことはない」だったのに対して、sigmarion IIIでは「それなりにできる」ものになっています。私が仕事でsigmarion IIIで使っているアプリは、SheetCE(旧SpreadCE)とIdeaTreeが最も多く、次いでftxBrowserですが、どれもsigmarion IIIの画面とキーボードと速度が揃って、はじめて実用的になったと感じています。少なくても私にとって、日常的にノートPCを持ち歩く必要が無くなるだけの機能と性能を持ち合わせています。

 とはいえ、確かに進化はしましたが、まだ快適には至りません。sigmarion IVが出て、IIIよりも速くて高機能なら買い替えます。どんな道具もそうですが、基本性能の部分でユーザが我慢しなければならない道具ではいけません。キーボードからの入力に表示が追いつけないとか、画面の切り替わりがもっさりするようなPDAは、100kmも出ない車、ビールが美味しい温度まで冷えない冷蔵庫、音の小さすぎるオーディオプレーヤーなどと同列です。スピードが出なくても、冷えなくても、音が聞きにくくても、その道具が好き、というケースもありますが、それは、それらの製品カテゴリが既に成熟していて、「普通のモノ」も選べる前提での贅沢と言えるでしょう。つまり、Webを見る。メールをする。写真を見る。動画を見る。音楽を聴く。etc…。ということができるPDAなら、これらのことが、多くのユーザにとってストレス無く使えるようになって、はじめて一人前の道具として認められるのだと思います。その意味で、PCはようやくその域に入ってきたように思いますが、PDAはまだまだお話になりません。

 理想のPDA…という話を、これまでに何度もしてきました。常に、もっと小さく、軽く、速く、大量のデータを積めて、バッテリーがもって…という要望が中心であったということは、まだ基本性能の部分で不十分であることの証明でしょう。少し客観的に、冷静に考えてみれば、PDAという製品カテゴリ自体が、近い将来には無くなるのかも知れません。しかし、PIMの管理やWebの閲覧、メールのやりとり、写真や動画や音楽の鑑賞などのニーズが無くなることはないでしょう。今、PDAの守備範囲にあるような機能が細分化する方向もあるでしょうし、ケータイ端末が高機能化していく方向もあるでしょう。いずれにしても、多様なニーズに対して、メーカーはひとつひとつの機能を、こだわりをもって作り込んで頂きたいと思います。

 まぁ、個人的にはPDAを使うのが「趣味」なので、今のところ楽しんではいますが、女房や子どもやその他の人に、実用品として勧められるモノじゃない、とも思っています。趣味だけなら「楽しいよ〜!」って言えますけどネ。工夫の楽しみ、周辺機器やケース購入の楽しみ、買い換えの楽しみ…。

 長くてスミマセンでした。<(__)>